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訓練風景


 部隊の訓練は、1基礎体力の向上及び維持 2エアバイクの運用技術訓練及びエアバイクとチップボールに代表される歩兵支援I=Dあるいはエアバイク同士の連携訓練など、座学なども含めればさらに増えるが、大まかにはこの2つを中心に行なわれている。


1.基礎体力の向上及び維持

「……つまりどういう事?」
「イメージとしてはガチガチの筋肉では無く、しなやかで均整の取れたボディを!って感じで」

 まず、基礎体力の向上及び維持については、どんなに装備や武器の性能が上がっても、最終的な戦力はそれを扱う者次第で決まる事から重視されている。特に、満天星国の歩兵は戦術上ウォードレスとエアバイクを高い頻度で使用しており、基礎体力の維持が十分達成できるよう、訓練カリキュラムに配慮がなされている。また、エアバイクの操縦は体重移動とフットペダルの操作によって行われるため、操縦者のバランス能力がエアバイクの機動性能に大きく影響する。
 そのため、特に体幹の深層筋をトレーニングすること等によってボディバランスの強化が図られている。具体的な手法としては近年レンコンが“発見”された事でも知られる密林での実戦を兼ねた訓練や、純粋なトレーニングを目的としたプールでの歩行訓練等が行われる。腰まで水につかった状態で訓練を行う事により、水によって適度に心肺機能に負荷をかけつつ、下半身を中心に筋力と持久力の向上が期待できる。


2.エアバイク訓練

「バラバラの個ではなく」
「一つの群体として」

 エアバイク騎乗訓練では、突撃兵の特徴である拠点への浸透戦術や陣地突破を成功させるために必要なエアバイクの操縦技術及び連携能力の訓練を行なっており、その中でも特に前述の課題として挙げられた「突入」や「入り組んだ場所での戦闘能力」を重視した機動、すなわち不整地での急制動を伴うアクロバティックな動きを可能にする訓練が行われている。では、そこで必要とされる操縦技術とはいかなるものであるのか?一言で言えば、それは人機一体となった操縦である。

 ―満天星国第4階層、軍事基地内演習場― 野外戦闘から市街地戦、閉鎖空間内への突入訓練まで幅広く様々な状況を想定した模擬戦用フィールドが設けられた施設である。その中の1区画は市街地での訓練を目的として、街を模した造りになっており、中小ビルや住宅が立ち並んでいる。そのダミーの街の一角、建物の陰に2台のピケ・チャリオットが縦列に並んで止まっていた。それぞれが本体と側車に1人ずつ搭乗しており、計4人。いずれも全身にまとったWDのために表情を伺い知ることは出来なかったが、身に纏った雰囲気とそのたたずまいは幾多の戦場を潜り抜けてきた事を感じさせた。

 WDに内蔵された通信装置から掠れたノイズと共に通信が入る。

「これより突入訓練、CASE26を開始する」

 と同時に、サイドカーのコンソール画面に光点が表示され、次の瞬間、兵士達はいっせいに行動を開始していた。急激な加速で疾走を始めた2台のサイドカーは交差点で二手に分かれ、それぞれが光点で示された場所である、雑居ビルへと突き進む。

 ほどなく一台のサイドカーが雑居ビルの正面玄関側に到達する。光点が示しているのは3階部分。普通ならば側車に搭乗する兵士が下車し突入する場面であろう。

 しかし、コンソール画面で僚機の位置を確認したドライバーが取った行動は全く異なるものであった。

「3カウント後に突入開始…………GO!」

 ドライバーはWD内蔵の無線で僚機とタイミングを合わせ、スロットルを一気に回すと同時にスラスタを下方噴射、弾丸すら連想させる急激な加速のままサイドカーは重力のくびきを置き去りにし宙を舞う。重力制御機構とスラスタの絶妙なコントロールは浮遊に留まらず、短時間の飛行すら可能にした。時間にしてゼロコンマ数秒、ドライバーはその優雅な動きのまま前方へ突撃銃を構え、あらかじめ装弾されていた模擬スタングレネード弾を発射。激しく砕け散るガラス片を前方装甲板に浴びながら吸い込まれるようにビル内部へ突入した。

 一方、裏口に回ったもう一台も同時に突入を開始していた。目の前にはサイドカー一台分あるかないかの幅しか無い階段。普通なら、サイドカーを降車し徒歩で3階へと向かう場面である。……そう、普通なら。だが、僚機からの通信を聞いたパイロットは不敵な笑顔を浮かべると何ら躊躇することなく、機体を突入させ……。

 そのまま階段を登りはじめた。熟練した技術と経験に裏付けされた絶妙なコントロールはわずかな隙間しか無いはずの階段を見事なターンですり抜けてゆく。そう、エアバイクの特性の一つ、走行路面を一切選ばないという特性を見事に生かしきったその走行は3回転の美しいらせん軌道を虚空に描き、そのままドリフト気味に側車でバリケードを突破。
 2台のサイドカーはほぼ同時に雑居ビルの3階に突入した。

  「―突入成功、制圧を確認」

「―訓練終了です。お疲れ様でした」
「―了解、セノンちゃんもお疲れ様―」

 オペレーター役を務める犬士、セノンから訓練終了の合図を受け、ようやく兵士たちの張りつめた空気が少し和らぐ。願わくばこのような訓練が必要になる日が再び来ない事を願いつつ、彼らは日々修練を重ねるのであった。