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 過去数回の宇宙方面からの敵との戦闘は赤オーマしかり、天領共和国しかり、と、いずれも宇宙から地上への攻撃により甚大な被害を出していた。

 EV136の勝利により、すぐに戦闘が起こる可能性は低かったが、今後宇宙から侵攻を受ける可能性は依然として残されており、今後これ以上同じ事態を繰り返さないためにも対策が必要であった。

 そのいくつかの対策の一つとして宰相府ではteraから十分に離れた惑星軌道上にあって艦隊の常時駐留を可能とし、戦闘時には基地自身が自在に宇宙を移動し軌道上から離れ、戦域へ向かう。そんな基地の建造が発案されたのであった。地上を戦火に巻き込まぬための最終防衛ラインとしての宇宙基地は幸いにも、前ターンでの勝利により建造中に敵襲を受ける可能性は低くなっており、タイミングとしても好機であるように思われた。

 しかし、この基地の建設が急がれたのにはもう一つ大きな理由があった。一つのきっかけ、それは一隻の朽ちた突撃艦である。

 時はEV136―長征作戦―に宇宙方面軍が無事勝利を収めた後に遡る。戦中、ペルセウスアームの敵本陣を捜索する過程で発見されたそれは、名をレガシーと言う。「遺産」を意味するその機体は、宰相府に持ち帰られレストアが試みられた。だが、しかし、「遺産」がもたらしたものは過去の叡智による福音などではなく、来たるべき未来に対する警鐘に他ならなかった。

 それは、空間移動技術を戦闘システムに組み込んだ突撃艦。

 結論から言えば、その機体をまっとうに倒すためには同系統の空間移動技術を用いる以外に無かった。さらに、その機体はかつて量産機として大量に生産されたらしい事が機体のレストア過程で判明している。

 状況から見て、ペルセウスアームやその他の勢力が同系統の機体を入手し、空間移動技術の転用を行う可能性は高かった。

 それゆえ、早急に対抗策を立てる必要があったのである。しかし、対抗策として空間移動技術を用いることだけは出来なかった。何故か。すなわち、テレポートとは「世界」に綻びを作る行為に他ならず、それを乱用すれば綻びだらけになった世界が脆く崩れ去ることは想像に難くなかったからである。あるいは、かつて大量生産されたこの突撃艦もそうした世界崩壊の引き金となっていたのかもしれない。

 また、それを抜きにしても宇宙における最終防衛ラインとしての基地の必要性は帝國軍において強く求められており、まっとうに攻めてくる敵への対処は言うに及ばず、それ以上にかつてこちらが幾度となく用いた戦術である「奇襲」への対策、基地内への歩兵戦力進入に対する対策、そして空間移動技術への対策として、既存技術のみでこれを無力化することを目指し、惑星艦隊基地の建造が始められたのである。




―もう一つの開発経緯、あるいは今後の展望―


 アイドレスにおいて状況の変化する速度は時にすさまじいものがある。特に技術発達の点においてそれは顕著であろう。

 空間転位、あるいは空間移動と総称される技術がこの基地を建造する上で一つの重要なきっかけとなったのは既に述べた通りである。それに対して既存の技術とその応用を用いて対抗を図ったのが、この基地であった。一方で、いくつかの組織によって別のアプローチによる対抗が試みられていた。

 すなわち、新たな技術を開発することにより、根本的に空間制御技術を封殺する、という試みである。これは、空間を“固定”することで空間跳躍、WTG封鎖を含む空間制御技術を使用不可能にするというものであった。そして、この方針の元、研究が進められた結果、空間固定装置を生産、あるいは起動可能な状態にまでこぎつけることが出来たのである。しかし、「空間を固定する」という荒唐無稽な技術は、ある意味予想通りいくつかの問題点を抱えていた。

 そこで、開発された空間固定装置の原理を説明することでその問題点について触れたいと思う。ただし、筆者は星見司の資格を持っているわけではないので極めて大雑把な説明になることをご容赦頂きたい。

  tera領域に存在する勢力が開発した空間固定装置はおおよそ2種類。基本的な原理は同一であるがその効果範囲が異なっている。一つはNWという一つの世界全体で固定を行うもの。どうやら一つの世界単位で空間固定を行う方が技術的には容易であるらしい(あくまで比較の問題ではあるが)。この装置の問題点は、装置を起動する際に一定確率で他世界と接続するWTGまで封鎖してしまう危険性があるという点であった。万が一、全てのWTGが封鎖された場合、NW への介入が不可能となる。すなわちゲームオーバーである。もう一つは効果範囲を小さくし、一つの星系単位で空間固定を行うもの。こちらの装置は前者のような危険性ははらんでいない。つまりWTGの機能(情報補完、世界移動など)を阻害しない事が可能だということである。ただし、当然ながら空間固定装置の範囲外では空間制御技術は使い放題であるため、空間制御技術の乱用を防ぐという観点から見て、装置一台ではほぼ意味が無い。また、前者・後者いずれにおいても空間固定装置は非常に巨大なものとなることが明らかにされている。

 以上の経緯から、一つの世界単位での空間固定は失敗した時の危険性が高すぎるため、星系単位での空間固定装置を量産すると共に、開発によって得られた知見をフィードバックすることで技術のさらなる発展を目指す計画が立てられた。そして、その計画の一端を担うのが、第二宇宙港の建造である。前述の通り、施設と表現した方が相応しくすらある、この極めて巨大な装置はただ建造するだけでは意味が無く、各々の装置が担当する星系まで運ぶ必要があった。この問題を解決するために、大型の宇宙艦に空間固定装置を内蔵させることで空間固定装置そのものに移動及び自衛能力を付与するという案が出されたわけである。

 また、この計画では空間固定装置を相当数用意する事が必要条件となる。しかし、既存の生産施設のみでは圧倒的に生産能力が不足していた。こうして、新たな生産施設として生産能力に特化した新たな宇宙港の計画が打ち上げられたのであった。

この新たな宇宙港はフォートオブジャスティスのドック・整備施設に備えられた高度な整備機構、とそこに付随するパーツ生産能力を発展させることによって高い生産能力の確保を目指すことや空間固定装置を製造するために、当基地においてTLOに該当する機体を扱う必要性からもたらされた高度なセキュリティ技術を応用することが計画されている。また、現在の宇宙港より外の軌道上に建設する事で、航路移動にかかるコストを削減する効果も期待できる。もちろん課題もある。特に資源をいかにして調達するかは避けては通れない問題だろう。現時点(T14)ではteraからの輸送以外に宇宙で新たな資源採掘地を開拓する案が出されているが、実際に発見することが出来るのか、また、十分な産出量を確保できるかなど、課題は多い。だが、それでも。我々は言葉ではなく事実をもって示さねばならないのだと思う。いずれこの世界を担う新しい世代に、信念を貫き力を尽くしたその先には必ず希望がある、と。